最近、字を書こうとすると手がふるえることがあります

Q : 特に何もしていないのに字を書こうとすると手がふるえることがあります(72歳女性)

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A:日常では気にならないのに、ふとした折にきづく手の震え気になりますよね。手の震えにはどんな種類があり、どう対応したらよいのでしょう?

字を書こうとすると手が震えること、これは書痙、局所ジストニアなどと呼ばれることもあり、心理的な要因やシステムの異常など色々な理由で起こることがあります。熱心に一生懸命書こうとしたり、きれいな字を書かなければならないなどストレスを感じているとでやすいです。良い仕事をする時ほどまずは気分転換、リラックスして取り組む事をお勧めします。

一般的に、手の震えにはいくつかの種類があります。まず、生理的振戦と呼ばれるもので、普通のストレスや疲れで手が震えることがあります。これは誰にでも起こることで、特に心配はいりません。また、本態性振戦というものもあり、これは遺伝の影響があります。普段は震えないけれど、手を使うときに震えるのが特徴です。さらに、パーキンソン病や甲状腺の問題が原因で手が震える場合もあります。この場合は特別な治療が必要です。

では、どんな人が手の震えになりやすいのでしょうか。まず、ご年配の方です。お年を取ることで筋力の低下や神経のシステムに影響が出て、手が震えやすくなります。次に体質です。家族に手の震えの病気がある場合、その影響を受けることがあります。そして、特定の病気がある人も手の震えが出やすいです。例えば、パーキンソン病の人は安静にしていても手が震えることがありますし、甲状腺が過剰に働く甲状腺機能亢進症の人も同様です。また、神経の病気等、例えば小さな脳梗塞や多発性硬化症 (MS)等も手の震えから診断につながることもあります。さらに、一部の薬を飲んでいる人も手が震えやすいです。特に精神安定剤や抗うつ薬などの薬が原因となることがあります。アルコールやカフェインを多く摂る人も注意が必要です。長期間多量に摂ると手が震えることがあります。そして、ストレスや不安が多い人も手の震えが出やすいことがあります。

では、どうすれば手の震えを予防できるのでしょうか。まず、ストレスの原因と反応を調整すことが大切です。足湯やカフェで読書やおしゃべりなどリラックスする時間を持ち、深呼吸やストレッチ、好きな趣味を楽しむことを心がけてください。次に、バランスの良い食事を心がけましょう。繊維やビタミン、タンパク質など栄養バランスの取れた食事で体の調子を整えることができます。そして、十分な睡眠を取ることも重要です。長さだけでなく”良く寝たな”と感じる熟眠感を目安にしてみるとよいでしょう。さらに、適度な運動をすることも健康に良いです。無理のない範囲で運動習慣を取り入れることが大切です。

もし手の震えが気になる場合や症状が続く場合は、医療機関に相談することをお勧めします。病院では、まずいつ手が震えるのか、他にどんな症状があるのか、日常生活の中で困っていることは何かを聞かれることがあります。

啓和会では地域の皆様の”日頃の困った”に耳を傾け医療と介護のサービスで暮らしを支えてまいります。ぜひご相談にいらしてください。

参考】
手の震え 長寿医療研究センター 手の震え | 国立長寿医療研究センターhttps://www.ncgg.go.jp/hospital/navi/03.html

(症状編)ふるえ 日本神経学会
https://www.neurology-jp.org/public/disease/fuzuii_detail.html

Parkinson disease 世界保健機関
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/parkinson-disease

Essential tremorメイヨークリニック
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/essential-tremor/symptoms-causes/syc-20350534

よくつまづきます。父がパーキンソン病でした

Q : 最近、家の中でよくつまづきます。父がパーキンソン病でしたが、まさか遺伝はしませんよね。(57歳女性)

A:段差も何もないところで転んでしまうこと、ありますよね。私の友人は足の小趾をぶつけることが多く困っています。さて、パーキンソン病とは、振戦(ふるえ)、動作緩慢、筋強剛(筋固縮)、姿勢保持障害(転びやすいこと)の4つを主な運動症状とする病気です。つまづきやすい=転びやすいと解釈してお話を進めていきましょう。
パーキンソン病は50歳-65歳で起こることが多い病気です。40歳以下で起こる場合は、若年性パーキンソン病と呼ばれます。
ほとんどの方では特別な原因はありません。神経細胞の中にαシヌクレインというタンパク質が凝集して溜まることがありますが、食事や職業、住んでいる地域など、原因となる特別な理由はありません。根本的原因は特定されていませんが、病態として大脳の下にある中脳の黒質ドパミン神経細胞が減少することで体が動きにくくなり、ふるえが起こりやすくなります。

質問者様もご心配の点ですが、パーキンソン病の9割以上は遺伝しません。稀に、若年性の一部で家族内に同じ病気の方がおられ、遺伝子が確認されると家族性パーキンソニズムと言われます。最近は,孤発性か家族性かを問わず、遺伝子の異常,あるいは遺伝子と環境因子の相互作用でおこる疾患であると考えられるようになり、治療法の開発研究も神経変性機構への介入実験を通じて進められているのが現状です。

症状には運動症状と非運動症状があり、運動症状として初発症状はふるえ(振戦)が最も多く、次に動作の緩慢さ、痛みなどがありますが、姿勢保持障害やすくみ足、筋強剛で発症することはないようです。ふるえは安静時の振戦で、動かすとふるえは小さくなります。動作緩慢は動きが遅くなり細かい動作がしにくくなることです。最初の一歩が踏み出しにくくなる「すくみ」が起こることもあります。姿勢保持障害はバランスが悪くなり転倒しやすくなることです。姿勢保持障害は病気が始まって数年してから起こります。筋強剛は他人が手や足、頭部を動かすと感じる抵抗を指しています。運動症状のほかには、便秘や頻尿、発汗、易疲労性(疲れやすいこと)、嗅覚の低下、起立性低血圧(立ちくらみ)などの自律神経障害や、気分が晴れない(うつ)、興味が薄れたり意欲が低下する(アパシー)、認知機能障害、睡眠障害などの多彩な非運動症状も見られ、パーキンソン複合病態として認識されることもあります。

治療の基本は薬物療法です。ドパミン神経細胞が減少するため少なくなったドパミンを補うためにドパミンの材料であるL-ドパやL-ドパの作用を強める代謝酵素阻害薬、それらの合剤を服用します。また、ドパミン神経以外の作用薬に、アセチルコリン受容体に作用する抗コリン薬、グルタミン酸受容体に作用するアマンタジン、アデノシン受容体に作用するイストラデフィリン、シグマ受容体に作用するゾニサミドがあります。さらに、難治例には手術療法は脳内に電極を入れて視床下核を刺激する方法も行われます。
日々の中で気を付けることができるのは運動です。体を動かすことは体力を高め、パーキンソン病の治療になります。激しい運動ではなく、散歩やストレッチなど、毎日運動を続け体力を高めることは重要です。また、気持ちを明るく保つことも重要です。気分が落ち込むと姿勢も前かがみとなり、動作も遅くなります。私たちが意欲を持って行動する時は脳内でドパミン神経が働いていると考えられています。日常生活の過ごし方も大事な治療ですので、ぜひ工夫してください。
パーキンソン病の中にまれに遺伝が関係するものもあるようです。気にかかる症状があれば遠慮なくご相談ください。当診療所内科では専門科の先生と連携して診療にあたっております。(金崇豪)

参考文献
◇葛原 茂樹 パーキンソン病治療の現状と展望 臨床神経,48:835-843, 2008
◇変性疾患部門(家族性パーキンソン病)順天堂大学医学部付属順天堂医院ホームページhttp://www.juntendo-neurology.com/n-hensei2.html 2018年9月7日アクセス
◇パーキンソン病 難病情報センターホームページ http://www.nanbyou.or.jp/entry/169 2018年9月7日アクセス