Q : 以前は毎週のようにカラオケに行っていた母が、最近外出しなくなりました。まだ55歳なので認知症ではないと思うのですが・・(30歳女性)
A : 55歳。家庭内では子育てや受験もひと段落、キャリアでは管理職、充実した日常の中にも更年期障害をはじめさまざまな健康問題が気になる頃ですね。
そもそも認知症とは「生後いったん正常に発達した種々の精神機能が慢性的に減退・消失することで、日常生活・社会生活を営めない状態」をいいます。
DSM-IVという診断の基準では、記憶障害に加えて失語、失行、失認、遂行機能障害などの認知欠損があること、それらにより社会的・職業的機能の障害があること、せん妄の経過中にのみではない認知欠損がある、などの項目があります。
認知症の原因としてはアルツハイマー病が最も多く、ピック病など前頭側頭型認知症は、記憶障害よりも性格・行動面の変化が目立ち、レビー小体型認知症はアルツハイマー病とパーキンソン病の特徴を併せもつといわれます。脳血管性認知症の診断には認知症状態・脳血管疾患の存在、症状と脳血管障害発症の時間的関連性が必要となります。また、治りうる認知症としてはうつ病の仮性認知症と薬物惹起性の認知症様状態が有名で、さらに、スピロヘータ、HIVウイルス、プリオンなどによる感染症が認知症の原因となることもあります。
さて、お母様は55歳。65歳までに発症する若年型認知症の診断はいろいろな意味で「難しい」とされます。一方で鑑別診断は多岐にわたり遺伝的要因の可能性が老年性認知症よりも高くなるため、認知症進行の病態を理解する重要な手掛かりがあるとされ診断、治療の研究が進んでいます。
若年型認知症の治療法として、症状の進行を緩やかにする薬物治療と併せてデイケアなど各種の心理・社会的な非薬物療法があります。また、日々の介護で心身ともに疲れきっている介護者への介護という視点も大切であり、認知症の精神症状・行動異常に対して、介護保険など社会的支援制度、薬物治療、非薬物治療を含めたアプローチをいたします。日本全国の若年性認知症は4万人弱と推計されており、血管性認知症とアルツハイマー病が多いのですが、うつ病などの精神疾患との見極めが難しく、高齢者の認知症よりも障害雇用などの社会的サポートの充実が必須と言われています。
質問者様のお母様の場合ですと、外出が減った事実のみで即、認知症とは言い過ぎかもしれません。当診療所は専門医への紹介や福祉事務所との連携を通して、さらに当法人全体で医療と介護が力を合わせて地域の認知症ケアをサポートしております。お気軽にご相談ください。(金崇豪)
参考文献:
◇厚生労働省「知ることから始めようみんなのメンタルヘルス総合サイト」(最終閲覧日2018年8月5日)https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_recog.html
◇Martin N Rosserら the diagnosis of young-onset dementia. Lancet Neurol. August;9(8):793-806.
◇小長谷 若年性認知症の実態及び支援の現状と課題。老年精神医学雑誌28:1039-1046、2017
◇干場功 行政政策プランに伴うリスク‐若年性認知症に対する施策を中心に‐。老年精神医学雑誌29:171-175、2018