2018年09月12日

よくつまづきます。父がパーキンソン病でした

Q : 最近、家の中でよくつまづきます。父がパーキンソン病でしたが、まさか遺伝はしませんよね。(57歳女性)

A:段差も何もないところで転んでしまうこと、ありますよね。私の友人は足の小趾をぶつけることが多く困っています。さて、パーキンソン病とは、振戦(ふるえ)、動作緩慢、筋強剛(筋固縮)、姿勢保持障害(転びやすいこと)の4つを主な運動症状とする病気です。つまづきやすい=転びやすいと解釈してお話を進めていきましょう。
パーキンソン病は50歳-65歳で起こることが多い病気です。40歳以下で起こる場合は、若年性パーキンソン病と呼ばれます。
ほとんどの方では特別な原因はありません。神経細胞の中にαシヌクレインというタンパク質が凝集して溜まることがありますが、食事や職業、住んでいる地域など、原因となる特別な理由はありません。根本的原因は特定されていませんが、病態として大脳の下にある中脳の黒質ドパミン神経細胞が減少することで体が動きにくくなり、ふるえが起こりやすくなります。

質問者様もご心配の点ですが、パーキンソン病の9割以上は遺伝しません。稀に、若年性の一部で家族内に同じ病気の方がおられ、遺伝子が確認されると家族性パーキンソニズムと言われます。最近は,孤発性か家族性かを問わず、遺伝子の異常,あるいは遺伝子と環境因子の相互作用でおこる疾患であると考えられるようになり、治療法の開発研究も神経変性機構への介入実験を通じて進められているのが現状です。

症状には運動症状と非運動症状があり、運動症状として初発症状はふるえ(振戦)が最も多く、次に動作の緩慢さ、痛みなどがありますが、姿勢保持障害やすくみ足、筋強剛で発症することはないようです。ふるえは安静時の振戦で、動かすとふるえは小さくなります。動作緩慢は動きが遅くなり細かい動作がしにくくなることです。最初の一歩が踏み出しにくくなる「すくみ」が起こることもあります。姿勢保持障害はバランスが悪くなり転倒しやすくなることです。姿勢保持障害は病気が始まって数年してから起こります。筋強剛は他人が手や足、頭部を動かすと感じる抵抗を指しています。運動症状のほかには、便秘や頻尿、発汗、易疲労性(疲れやすいこと)、嗅覚の低下、起立性低血圧(立ちくらみ)などの自律神経障害や、気分が晴れない(うつ)、興味が薄れたり意欲が低下する(アパシー)、認知機能障害、睡眠障害などの多彩な非運動症状も見られ、パーキンソン複合病態として認識されることもあります。

治療の基本は薬物療法です。ドパミン神経細胞が減少するため少なくなったドパミンを補うためにドパミンの材料であるL-ドパやL-ドパの作用を強める代謝酵素阻害薬、それらの合剤を服用します。また、ドパミン神経以外の作用薬に、アセチルコリン受容体に作用する抗コリン薬、グルタミン酸受容体に作用するアマンタジン、アデノシン受容体に作用するイストラデフィリン、シグマ受容体に作用するゾニサミドがあります。さらに、難治例には手術療法は脳内に電極を入れて視床下核を刺激する方法も行われます。
日々の中で気を付けることができるのは運動です。体を動かすことは体力を高め、パーキンソン病の治療になります。激しい運動ではなく、散歩やストレッチなど、毎日運動を続け体力を高めることは重要です。また、気持ちを明るく保つことも重要です。気分が落ち込むと姿勢も前かがみとなり、動作も遅くなります。私たちが意欲を持って行動する時は脳内でドパミン神経が働いていると考えられています。日常生活の過ごし方も大事な治療ですので、ぜひ工夫してください。
パーキンソン病の中にまれに遺伝が関係するものもあるようです。気にかかる症状があれば遠慮なくご相談ください。当診療所内科では専門科の先生と連携して診療にあたっております。(金崇豪)

参考文献
◇葛原 茂樹 パーキンソン病治療の現状と展望 臨床神経,48:835-843, 2008
◇変性疾患部門(家族性パーキンソン病)順天堂大学医学部付属順天堂医院ホームページhttp://www.juntendo-neurology.com/n-hensei2.html 2018年9月7日アクセス
◇パーキンソン病 難病情報センターホームページ http://www.nanbyou.or.jp/entry/169 2018年9月7日アクセス